アントワーヌ・ベシャン博士という人物を、ついこの前まで知りませんでした。

生涯の教科書にしたいと思うほどの本、ミシェル・オダン著『プライマル・ヘルス』の冒頭に、このように書かれています。

本書をアントワーヌ・ベションに捧げます。

それは彼が、

パルツール以前に発酵のしくみを理解していたからではなく、

パスツール以前に細菌の知識を得ていたからでもなく、

疾病における微生物の役割を実証したからでもありません。

パスツールが栄光に酔いしれる中で、アントワーヌ・ベションは次のように考えていたからです。

「疾病を引き起こす異常な状態を調べようとするよりも、まず大切なのは、健康を支える正常な状態を知ることです」

近代細菌学の開祖といわれるパスツールやコッホや、日本人の誰もが知っている野口英世や北里柴三郎の功績があって今の医学があると言えるのだけれども、

病原菌との戦いよりも、私たちの体の状態・環境に注視することが大切であるという「病原環境説」を唱えたアントワーヌ・ベシャン博士のあの言葉で、

『風の谷のナウシカ』のナウシカが腐海の植物を地下の浄化された水で育てる場面を思い出すのは、私だけではないかもしれない…と思ったりしています。

地上で暮らす人々が怖れる腐海の植物は、きれいな水で育てると瘴気(しょうき)を出さない。腐海の植物は、人間が汚染した世界を浄化させるために作られた生態系だった…という話ですが、

一見、悪いように見える症状でも、身体にとって正常な状態にもっていこうとする機能〔恒常性維持機能〕を、私たちは皆持っていて、それを働かせている。その恒常性を乱さないようにするにはどうしたらいいかを見ていくことが大事だし、それが《養生》というものなのだろうな…と思う今日この頃です。